チリの始まりの国サンペドロ・デ・アタカマは不思議な街だった。
日干しレンガで建てられた町並みは一見するとボリビアとそう変わらなさそう。
土壁から背伸びして顔を出す竹やぶはどこか、日本の田舎を連想させる。
気温も随分と温くなった。
行き交う人の顔もはっきりと変わった。
何故か自分のいるべきじゃない場所に迷い込んだ錯覚を覚えた。
まずはイミグレで入国手続。
今までの入国手続とは違って、ツーリストカードと税関用紙にしっかりと書き込みをさせられた。
税関の建物にはX線の検査装置があった。
もっとも自転車ということで口頭のみのチェックに終わったのだが。
イミグレでチリの文明力をまざまざと見せつけられつつ、今度は両替。
イミグレ近くの商店で両替が出来たのでそこに入ると、小さな店内にあって商品がぎっしりと陳列されていた。
ボリビアとの違いは歴然。
浮き足立った心で、まずはセントロを目指そうと自転車を走らせる。
セントロへ続く小さな通りに差し掛かった時、向こうから自転車を走らせた女の子とすれ違った。
小柄でショートカットがキュートな女の子だった。
そしてこれまたホットパンツから眩しいお御足が映える。
いやぁチリさんどうもありがとうございます。
とその女の子が僕に声をかけてきた。
『あなた自転車で旅してるの?』
「うん、そうだよ。いまボリビアから来たんだ」
『ワォすごい!ワタシも自転車で旅してるのよ!
ねっ、あなたお腹空いてるでしょう?
ワタシの家にご飯食べに来て!』
「んっ、ええ??」
わけの分からない急展開に頭には“???”マークが踊った。
自転車で旅してる?女の子で?
なのに家がある?どーゆうこと?
なんか新手の詐欺??
いろんなことが考えられたが、結局のところ、そのお御足の誘惑に勝てず着いて行った。
こんな可愛い子が僕を騙すわけがない。
むしろ、あの目はもう僕に恋をしている目だ。
今日は自転車をこいで汗をかいちゃってるけど大丈夫かな。
一気に妄想が膨らむ。
騙される男の典型的なパターンである。
彼女はセントロから逆方面に自転車を走らせた。
だいじょうぶ…だよな。。。
と急に彼女は自転車を止めて言った。
『あ、そーだ。ノビオに知らせなきゃ!』
あ、うんうん、ノビオね、ノビオ(恋人の意)
騙されることはなくなったが、僕の夢も敢え無く散ったわけだ。
ちーん。
一度彼女の紹介で郊外にあるホステルにチェックイン。
荷物を置いてからすぐ隣りのブロックにある彼女の家に向かった。
彼女の名前はバレンティナ。
チリのビーニャ・デル・マル出身でアルゼンチン人の彼と一緒にアラスカを目指しているそうだ。
聞くと旅に出て1年。
にも関わらず、まだチリから抜け出せていない 笑
ほんとにアラスカ行けるのかな。
彼女は
『ぜんぜんお金貯めずに旅に出ちゃったから、いまこうして働きながら旅することになっちゃったんだ』
と笑いながら言った。
しばらくすると、彼のアウグストが仕事を終えて帰って来た。
彼はこのアタカマの牧場の手伝いをしてお金を稼いでいた。
旅をしながら働く。
そんな発想は僕にはなかったけれど、そんた旅の仕方も面白そうだなーと思った。
夜はバレンティナのお手製クリームパスタを食べながら、自転車話に盛り上がった。
彼らは北上ルート、僕は南下ルートなのでお互いにルートの情報を交換したり。
バレンティナは、僕がパスタを食べ終わると、もっと食べて!自転車に乗るパワーつけなきゃと
おかわりをよそってくれた。
こういうところ、サイクリストだからわかってくれてるなーと嬉しくなる。
彼女は何か言うと“SI si siiiii!!”とか“Lindoooo!!”が口癖で、悪く言えばおてんばな、
良く言えば快活なキュートな女の子。
対してアウグストは、バテンティナを優しく包む包容力のある男だった。
年はアウグストの方が年下だけれど、すぐに素敵なカップルだと分かる空気感があった。
(負け惜しみではない 笑)
チリに入って数時間。
道も人もいきなり面白い展開になってきた。
アタカマはすぐに出てアルゼンチンに行くつもりだったけど、少し長居しようかな。
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