2013年3月31日日曜日

終盤戦突入

遠くに見える山塊は圧倒的迫力で立ちはだかり、
頂から流れる雪解け水は解けた雫が集まり滝となって流れ出、
やがて川となり泉となり僕の手の届くところまでやってくる。
その水をすくって、喉を潤し、再び僕は自転車に跨る。
ダイナミックな景色のオンパレードのカレテラアウストラルもいよいよ終盤戦。
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2013年3月29日金曜日

2年目のクリスマス それぞれの過ごし方

急坂に次ぐ急坂の連続で、体力もスッカラカンになりかけた午後8時前、ようやくコクランの街についた。
こんな時間といえど、パタゴニアの日は長い。
この時期走る気になれば午後10時くらいまでは余裕で日が持つ。

セントロを目指して自転車を走らせ、ちょうどT字路の突き当りに差し掛かった。
正面で男が手を広げて、僕を招いている。
なんだろうと、吸い寄せられるように近づくと、男の影でアランが手を振っていた。
アランとはコジャイケ以来の再会だ。
手を広げていた男もサイクリストで横から、奥さんも出てきた。
マティアスとアンドレアというスイス在住のドイツ人。
アランとはセロカスティージョで出会って一緒にペアランしてきたらしい。

彼らはこのT字路にある宿に泊まっているようなので僕もそのままそこに泊まることに。
早速、表のテーブルで晩酌タイム。
ヘトヘトに疲れた体に流しこむビールは、この世における至福を凝縮したような喉越しだ。
あっという間に酔いが回って良い感じ。

今日は、プエルトトランキーロから走ってきたと言うと、みな目を丸くして驚く。
そして、色々とツッコミを受ける。
『お前の名前はロケットマンか?!』
「そうなんだよ、アルゼンチンの峠越えをした時もあっという間にいなくなっちゃったんだから」
などなど。

それからこれまでのルートの話をする。
どこがキツかったとか、あそこには行った?とか。

みんな、僕の拙い英語でもちゃんと聞いてくれて、
そしてユーモアのある返しをしてくれるのが有難かった。
みんな僕よりもだいぶ年上で、振る舞いや旅のスタイルにも余裕があるのがよかったのかもしれない。
僕もリラックスしてその輪に身を委ねることが出来た。

しばらくして、アンドレアが何処かへ行ったかと思ったら、ホットワインを作ってくれていた。
シナモンとレモンをたっぷり絞ったホットワインでクリスマスを祝うのがドイツ流だそうだ。
今日は12月23日。
明日はこの街を出発し、恐らくキャンプになるだろうから、この街でクリスマスの前祝いをしたのだった。

ホットワインは甘さの割に飲みくちスッキリでグイグイ飲める。
酔いがさらに回る。

僕が
『明日はワインが飲めなくて残念だね』
と言うとアンドレアが
「まさか!明日の分で3リットル買ってあるわ」
とゲラゲラ笑っていた。

その時は冗談半分でその話を聞いていたのだが、翌日になって僕は驚いた。
この日は僕はこの街で休養日に充てるつもりだったので、出発する彼らを見送ろうとした時だ。
マティアス、アンドレアの荷物の量が半端じゃなく、度肝を抜かされた。
フロントバッグを含む5バッグに、なんとトレーラーを引いているのだ。
中身は何?と尋ねると、「全部食べ物とお酒」とアンドレアは再び豪快に笑った。
さらに、忘れるとこだったと寝室からギターまで登場する始末。

ごく標準的な荷物量のアランと並ぶと、アランの自転車が霞んで見えてしまう。
こんなに荷物満載のチャリダーは初めてみた。
恐らく自転車込で80kgは越えるんではないか。

近くのスーパーの開店を待ってワインをさらに買い足して出発すた彼らに
さらに開いた口が塞がらなくなった。

たぶん今夜、彼らは世界一豪勢なクリスマスキャンプをするサイクリストたちになるであろう。
チャリダーとひとくくりに言ってみても、改めて世界には色んな旅のスタイルがあるもんだ。

彼らを見送った後、僕は宿を変えた。
今日一日時間があるので、ネットの使える宿に移った。

荷物を入れて一息ついた後、セントロに散歩に出かけた。
セントロにある広場は小さいながらも、草木の手入れがきちんとされ、
広場を囲む四方には学校や銀行、スーパーなど街の機能がひと通り並べられていた。

コクランくらいの規模だったら大好きなスーパーUNIMARCがあるかと思ったが、
その思いは儚く散り、
個人商店に毛が生えた程度の品揃えのスーパーに足を運んだ。

クリスマス・イブということでたくさんの買い物客が朝から殺到している。
明日はどこの商店もクリスマス休暇をとってしまうからだ。
決して広くはない店内はすれ違うのもやっとなくらいにごった返していた。

買い物カートに投げ込まれた商品の数だけ、それぞれ今日明日のクリスマスの物語があるのだろう。
みな一様に頬がほころんで見える。

こっちのクリスマスは家族と過ごすのが一般的だそう。
ほとんど娯楽のない小さなこの街だから、
各々の食卓を囲む家族たちの顔が容易に想像出来て、僕もなんだかほっこりした気持ちになった。

宿に帰ると、宿の親父もどこかせわしなさそう。
レストランを兼ねている一階で僕が過ごしていると、ケーキを1ピース分けてくれた。

夕方になると親父は着替えを始め、僕にこう言った。
『いいか、俺はこれから家族で出かけるから、留守番は頼んだぞ。
帰ってくるのが遅くなるから、ちゃんと電気消しておいてくれよ。
明日は何時に出発だ?8時?
夜、帰ってきたら明日の朝食はこのテーブルに準備しておくから
それ食べて出発してってくれ』

なんちゅーテキトーさ。。。
客に宿を託してっていいのかよ。

でも怒る気もしなかった。
今日は彼らにとって1年で1番大事な日だろうから、存分に楽しんで欲しいと思った。
これがちょっとした都会だったら、“あの野郎遊びに出かけやがって!”と思ったかもしれないけど。

一人ぼっちになった宿で1年前を振り返る。

1年前の今日はメキシコのチアパス州の名前も思い出せない街道沿いのホテルに泊まったなぁ。
どこも店じまいが早くって慌てて駆け込んだレストランに駆け込んだなぁ。
そこで持ち帰った黄金色のスープの味が忘れられない旨さだったなぁ。

そんなことが思い出された。

バタバタと駆け抜けていった1年前とは対照的に、
今年のクリスマスはゆっくりゆっくりと沈む夕日が印象的だ。
伸びる影と一緒に1年を振り返る時間がずいぶんと贅沢な時間に思える。

ようやく日が暮れ、町を闇が覆った頃、近くの家から子供たちの声が聞こえた。
きっとこの声の持ち主もその家族も素敵な食卓を囲んでいることだろう。

ずいぶんと満たされた気持ちで明日の出発のためにシャワーへと向かった。
そうしたら、ガス切れで水シャワーしか出なかった。

あの親父!!

そして翌日。
出発前に朝飯を食べようと一階に降りると、
テーブルの上はまっさらなままだった。

あの親父!!!!!!

そんな2年目のクリスマス。

果たして来年は…?

2013年3月27日水曜日

色彩の水街道

プエルトトランキーロからコクランまでの120kmを一気に走った。

中間地点にベルトランドという小さい村もあったので刻んでも良かったのだが、
天候に恵まれ、並走するベイカー川の輝きに心奪われ、こんなチャンスは逃すまいとノンストップで駆けた。
へネラルカレーラ湖に始まり、ネグロ湖、ベルトランド湖、ベイカー川と異なる色彩を抱えた水源が見れる
カレテラアウストラル屈指の好ルート。

チリ南部だけでチリに流通するミネラルウォーターの(確か)8割を賄っていると
どこかのインフォで見かけた気がするが、それも納得できるほど、このあたりは水に恵まれている。
走行中、僕も適当な小川から水をすくって飲んでいる。
これがまた美味い。
水分が全身に染みていくのが確かに分かる気がする。

この輝く水を、どうにか切り取りたくってボトルに入れてみたりするのだが、
ボトルに入れた途端に魔法は解けてただの無色透明な水になってしまうから不思議だ。
太陽の照り方と、その土地に含まれる鉱物、最近の天気等々色んな要素が
絡まって織り成す色彩は、まさに一期一会の景色。

ただ、ベルトランド以南は、アップダウンがより激しく、尋常ではない勾配の急坂が数箇所。
こんな道がチリの大動脈である国道7号線でいいのか!?と突っ込みたくなるほどハード。
走るなら刻んでいくのをオススメします。

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2013年3月25日月曜日

青を湛えた鍾乳洞

本日はこの辺りに広がる大きな湖へネラルカレーラ湖湖畔の鍾乳洞Capillas del Marmolを観光。
その前に観光拠点のプエルト・トランキーロの街へ移動。
20km程度で楽勝移動かと思いきや、レイクサイドの道はいつもよりアップダウンが激しく、おまけに数kmほど手持ちの地図から距離表示がズレていたため精神的に大変だった。
しかし、天候が回復し、眺めはグッド。
湖畔沿いの道は走るほどに、湖面の色が変わって見え、走っては止まっての繰り返しだった。

さて、肝心の鍾乳洞の方。
これは日本でもマーブルカテドラルなんて呼ばれていて、近年バックパッカーにも人気の場所なので
もしかすると写真で見たことがあるかもしれない。
カレテラアウストラルの中でももっともアクセスのしづらい場所にあるこの奇岩洞は晴れた日に見に行くと
湖面の淡い照り返しが、洞窟に陰影をつけて素晴らしいです。
大の奇岩好きの僕ですが、これまで走ってきた広い南北アメリカ大陸にあって
青を湛えた奇岩というのは初めて。
道そのものがハイライトのカレテラアウストラルにあっても一際存在感を放つ場所。

へネラルカレーラ湖は南米ではチチカカ湖に次いで大きな湖なんだそう。
だからかどうか分からないが、ボートに乗って鍾乳洞へ向かう間もかなり波が立っていた。
そしてパタゴニアの風。

水と風の侵食によって作られた、奇岩の表面はぱっと見、荒々しくも
近づいて触ってみると驚くほど滑らかでつるりとしていた。

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2013年3月23日土曜日

ずぶ濡れ街道再び

今日からまた未舗装に入る。
これより以南は完全にダートで次のアスファルトはアルゼンチンに入るまでお預けとなる。
セロカスティージョの集落の先に続く上りから分かりやすいほどあからさまに道はダートになり、
アップダウンもきつくなった。
傾斜自体は舗装路と一緒なのかもしれないが、ダートだと一漕ぎ一漕ぎにかけるトルクが舗装路より必要なので、きつくかんじる“だけ”なのかもしれないが。
それにしても本当にこの街道はアップダウン続きだ。

今朝も相変わらず山は雲をかぶったままだったが、セロカスティージョに連なる山脈の一部が顔を覗かせ、なかなかに凛々しい佇まいを見せてくれた。
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それもあっという間に雲に飲み込まれ、再びの雨街道の始まりとなった。
ぬかるんだダートはタイヤを取られて走りづらい。
跳ね上げる泥が背中や足元にべたべたとこびり付きみっともない限りだ。
写真を撮る気力も萎え、ひたすら距離を稼ぐことに専念する。

この辺りも河あり森ありのルートで天気が良かったらさぞ楽しいコースなんだろうな。
けど、雨のこの状況ではただ単に先に進むためだけの道に変わってしまう。
これほどに天気によって印象の変わる土地ってなかなかないと思う。
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道中、唯一の楽しみはコジャイケのスーパーで買い込んできたサラミ。
雨に打たれつつ立ち食いのみっともない格好ではあるけれど、やはり美味い。

今日は小さな村に着くアテすらない。
幸いにして途中途中、小さなバス停があったので今日はバス停キャンプかなーと思いつつ、
不意に現れた森のトンネルを抜けると、地図に載っていない小さな集落にでた。
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といっても村の本体は街道を外れて2kmほど奥に行かなければならないそうで
街道沿いには小さな家が数軒あるだけだった。
だが、そんな数軒の家々の中に一軒宿があった。

値段を聞くと6000ペソと手頃な値段だったので即決。
値段の割に部屋は綺麗で、シャワーもガスで沸かした熱々のお湯が出た。

汗冷えか、雨濡れか分からぬ冷たい体にシャワーの熱を流しこみ、ひとごこちをつく。
カンカンに焚かれた薪ストーブが2台も焚かれた宿は柔らかな温もりが立ち込めていた。

雨はやっぱり好きになれないけど、こうした雨の走行を走りきった安堵感は
何にも代えがたいものがあるんだよな。