2011年8月3日水曜日

ナイトランの恐怖

グレイシャー国立公園を後にした僕は、再び南下を開始。
US89号から、US287号に乗り換えモンタナの州都Helenaを目指す。
巨大キャットフード

モンタナは牧畜が主な産業となっていて、あたり一面に広がる平原には牛が山ほどいる。
一説によればモンタナの人口の2倍以上牛がいるとか…
典型的な田舎道を走っていると、たくさんの牛を乗せたトラックが僕を追い越して行く。
牛と目が合うと、思わず“ドナドナ”を口ずさまずにはいられない。

♪あーる晴れたー ひーるさがりー いちばーへつづく道ー…♪

また平原のため風通りがよく、たまたまかもしれないが僕の場合ずっと向かい風が続いていた。
天気が良すぎるのも問題で、風が強い、天気がいいとなると午後になると大抵雷雲が発生するので
ビクビクしながら走っていた。

choteauという街に一泊した後、その日はwolf creekという街で一晩過ごす予定だった。
ここで高速道路のI-15と合流するので何かしらの宿泊施設はあるだろうと踏んでいた。

相変わらずの向かい風と迫り来る雷雲に精神を削られながらも6時半ごろ到着。
レインボウというアイス。味の層が分かれていてウマイ

GSでアイスを食べて休憩し、寝床探しをするとキャンプ場はここから逆方向に10マイル先の山の中。モーテルの看板もあったがそこは潰れていた。
戻ってキャンプ場に行くのも嫌だったので、店の裏にテント張らせてもらえるよう頼むもダメといわれてしまう。
さて、どうしたものか??
この先35マイル先のHelenaまで街はない。
戻るよりは先に進んだほうが気持ち的に楽なので、進みながら 野宿できるところを探そうと時間も遅かったが先へ進むことにした。
しかし、なかなか野宿適地が見つからない。
というのも高速道路を走っているのと、至るところに牛が放牧されているのでなかなかいい場所がないのだ。

そうこうしているうちに時刻は8時を回った。
日没は9時半ぐらいなのでまだ明るい。
残り20マイル。
僕のペースだとだいたい一時間につき10マイルほど進む。
頑張ればHelenaに着くんじゃないのか?

よし、行こう!と決めた瞬間に現れる坂道。
さっきのGSでアイスしか食べていなかったので力が入らない。

少し暗くなってきて、遠くから来る対向車のヘッドライトの明かりで頂上を探るも大分先にようだ。

“ミスった、さっきの街で止めとくべきだった”と思っても後の祭り。

頂上に到着する頃には日はすっかり暮れていた。

この旅初のナイトラン。

ナイトランというのは本当に神経を使うし危険だ。

大抵のアメリカの道というのは街灯というのは無く、100mおきくらいに設置されているリフレクターだけだ。
道によってはリフレクターすらなく、白線だけが頼りとなる。
道路脇には車に撥ねられた鹿やタヌキの死体がごろごろ転がっているので夜間の衝突事故の可能性はけっこう高そうだ。
おまけに僕は視力が悪い。しばらく測っていないがおそらく0.5を下回るくらいだと思う。
一応メガネを持参しているが、あまり付け心地が好きでないのでほとんどかけない。コンタクトは試したことがない。

すぐ隣は時速130kmを越えるスピードでかっ飛ばすトラックやキャンピングカー。
こんなのに接触したら一発アウトだ。

かなり危険な状況だが、もう走るしかないような状況だったので行くしかない。

登りの頂上に出ると、その先にHelenaのものであろうと思われる街明かりが見えた。
もうこの明かりを抱きしめたい気持ちでいっぱいになった。

人工的な光がこんなに愛しいとは…

けど、地図で確認するとまだまだ距離はある模様。

ここから下りのようだが、ナイトランでの下りこそ要注意。
路肩にはガラス片や、バーストしたタイヤのケブラー繊維が無数に転がっているので視認性が悪くなる夜は特に注意して走らないとパンクの原因になる。
“焦るな焦るな”と僕は自分に言い聞かせるように頭の中で反芻していた。

僕は“迷ったら突っ込んでしまえ”的な行動を取ることが多い。
今回もそのせいでナイトランをする羽目になったのだが。

そんな僕の性格を知ってか、親しい友人や上司たちは旅立ち前に“無理や無茶はするな”というメッセージが多かった。
先日も、かつての上司にメールを送った際に“無理せずに少しづつ進みなさい。少しづつでも目的地には近づいているから”という言葉をもらった。
自分のことを熟知している上司だからこその言葉だった。

街の明かりは見えたが、一度自転車を下りてナイトランの用意をした。体を冷やさぬようにウインドシャツを羽織り、ヘッドランプを装着し、テールランプを付け、メガネをかける。途中でハンガーノックにならないようにチョコレートをかじる。
そうこうしている間に辺りはどんどん暗くなっていくが、絶対焦るなと言い聞かす。

僕が在職していた時、僕の勤めていた会社の新人トレーニングで必ず教える大項目がある。

それは“お客様最優先”ということを行動指針だ。
新人アルバイトにこれを教える際に、いつも僕は得意げに

『お客様最優先とはどういうことか考えてください。単純にスピードだけではありません。スピード優先でミスをしてしまったら元も子もありません。正確に行うこと、正確な情報を伝えることこそがお客様最優先なのです。』
なんて教えていた。

なぜかナイトランの準備をしている時、この時の情景が頭に浮かんできた。

そうだ、日が暮れる前に走りきろうと焦ってはいけない、しっかり準備することこそが安全を生むのだ。

不思議と心に落ち着きが生まれてきた。

街明かりに辿り着くまではまだ大分かかりそうだったが焦りは消えて、安全運転で街へとペダルを漕いだ。


結局街に着いたのは10時半頃。
宿に入った途端、ドッと疲れが出てきたものの、あながち4年ちょいの社会人生活も役に立つもんだなーなんて思いながら直ぐに寝入ってしまった。

しかし、明け方の4時ごろ携帯電話が鳴る。知らない番号からだ。寝ぼけ眼で電話に出ると

『○ロックスの者です、いまそちらの店舗のコピー機が調子悪いと連絡受けたのですが…』

とコピー機の業者からの電話だった。

僕は去年新店立ち上げに携わっていて、店舗の電話番号が発番されるまでは僕の携帯が窓口になっていたため、その名残で僕に電話がかかってきたのだ。

『すみません、今お店にいないのでお店の番号教えますね』

とお店の番号を教えて事なきを得たが、こんな激走した日に限って…。

社会人生活が役立ちつつも、未だ社会人時代の名残を断ち切れないのであった。

(やっぱり個人携帯でなくって会社携帯を貸与する改善提案は必要ですね!!)

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