2012年7月16日月曜日

完敗のアンデス

さて、いよいよ今日の途中の分岐から未舗装路に入る。
地図によるとルートは3本ほどあって現在地から近い手前2つは特にローカルルート。
一番奥のルートはかなり遠回りになるものの国道番号的に言えば正規ルートのようだった。
ただ、その正規ルートを調べると、他二つよりもアップダウンや標高自体も高く、何より距離的に60kmほど遠回りになってしまうようだった。
なので、先の2つのルートを優先しつつ、そこの道路状態を見て、走るのが厳しそうだったら、一番奥のコースにしようとフレキシブルに対応していく事に。
途中、野宿の可能性もあることから食料と水もたっぷり持って出発。

ウアマチュコを出るために、急坂があったがそこを越えると断崖沿いをゆるやかに下る気持ちのいい道。
道路も2車線に復活した。
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おおお!
これだよ、これ!
このままずっとゆるい下りが続くようなら、みんな自転車旅行にハマるだろうなぁと思うような道。
左右にはおよそ富士山と同程度の標高の山々を見上げ、それらをゆっくりとスライドさせながら自転車は下っていく。

そんな夢心地も前方に川が見え出したら終了のサイン。

しんどい登りが始まる。
自転車旅行ブームを夢見た自分が馬鹿だった。
世の中そんな甘い話はない。
しかし、この登りがあるからこそ下りがあるわけで、しかし、その登りのきつさは大衆迎合されるものではなく
ごく一部の酔狂な人たちにしか、分かり得ないマイナーな感覚だ。

3000m超のすぐ息が切れる坂道を自重を含めて100km以上の大荷物で重力に逆らう。
その苦痛と快感が相反し共存する感覚は、やはりマイノリティのものであった。

ペルーの坂道標識急すぎません?
実際はもっと緩やか、でもエクアドルは実際にもこんなでした 笑
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15kmほど走って、一つ目の分岐に差し掛かった。
一瞬、ここじゃないだろと思ったが、前方のトラックがその分岐の方に入っていくのが見えたし、GPSで確認してももどうやらここのよう。
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今いるアスファルトとの落差にひるみ、とりあえず前方のトラックの行方を目で追う。
傾斜と路面のせいでかなりスピードを落として進んでいる。
遠くに道が見えるが、間には川があり、橋のようなものも見えなかった。
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い、いけるか?
どうしようかと迷いに迷ったけど、標高的にも、距離的にもここで行っておくのが一番楽そう。
ここは走るのが辛くても、向こうの道まで我慢すればなんとか走れそうだ。

よし…
覚悟を決めて突入。

道はその覚悟が一瞬で崩れ落ちるほどの荒れ具合だった。
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ハンドルと尻が小刻みに震え、時折大きな衝撃にぶち当たる。
そして前日に振った雨のせいで路面がぬかるんでいた。

なんとか1kmほど走って、川面近くまで行った。
そこには先程のトラックもいたが、そこから先の道は見当たらず、あったとしてもこれよりもひどい道で自分には道と認識出来なかった。
何より川を越えて向こうの道に合流出来そうなところはない。

川辺は採砂場のようで先ほどのトラックを含め、数台のトラックがブルドーザーによって荷台に砂を集められていた。

一本目、撤退決定。

とてもじゃないが、ここをずっと走っていくことは出来なそうだったので引き返すことに。
まだ道はある。

帰り道は傾斜もあって、サイクルコンピューターのスピード表示が全く作動しないほどの遅さで登る。
登るというより引き上げるに近い感覚だった。

たった1kmほどの未舗装路を走っただけなのに、元の道路に戻りアスファルトを走るとハンドルと尻に伝わる振動の少なさに驚く。
アスファルトってこんなに滑らかだったのか。

アスファルトは昨日までのアップダウンとは違って下ることなく、ぐんぐんと標高をあげ。
やがて、さっきまで見上げるほどだった山々を今度は見下ろす高さまで上がっていった。
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気がつくと、いつも信じられないところに建っている送電線鉄塔をも見下ろす高さまで道は続いていて
いつのまにかその鉄塔さえ見当たらない、高地に出た。
その景色にはなんとなく見覚えがあった。
コトパクシ登山で行った時の4000mを越えたあたりの高地地帯。
背の高い木々は見当たらず、わずかに生い茂った草がポツポツと見えるそこは、やはり4000m近い標高だった。
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そこは鉄塔さえも見当たらず。
唯一、伸びるアスファルトの道路だけが現代を表現する人工物であってそれを除けば、数百年前のインカの時代からまるで変わっていないのではないのだろうかと思わせるアンデスの原風景だった。
ロードサイドには残雪も散見され気温が低いことを物語る。
そしてついには4000mを越え。
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そこに現れた小屋で昼飯。前日に中華屋でチャーハンをテイクアウトしていた。
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チャーハンはかなり冷えていたものの、この高地にあってこんな手の込んだ料理を食える幸せを噛み締めつつ食らう。

小屋から数km。
リャマの群れを脇目にしながら、そこを抜けた先に2つ目のルートが現れた。
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予想通りの未舗装路。
けれど傾斜も石の大きさもさっきにくらべればかなりマシ。

行ってみるかと自転車を進めた。
ガタンゴトンと揺れるものの何とか進める。
両サイドはキャンプしたらさぞ気持ちいいだろうと思える牧草地が広がっていた。
だが、進むにつれ少しづつ道は大きな石が目立つ道が増えてきた。
それに前日に降った雨が泥になってタイヤやフレームにまとわりつく。

それだけでも進むのが大変だったが決定的だったのは、雨。
雨と言うよりは雹か?
降り出した雨は大粒の雨はあっという間に装備をびしょ濡れにし、僕は慌ててレイン装備に切り替える。
こんな一番の山場で一番最悪な展開。
引き返すべきか、べきでないかかなり揺れながら進む。
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6kmほど行ったところで一気に標高を下げるつづら折れに出た。
ブレーキを握り締めながら一つ目のカーブを曲がろうとした時に、ズリズリっと後輪が泥にめり込むようにスリップした。

ここは見通しのきく場所で、カーブはこの先の下にいくつも見える。
時折、ガソリンを積んだトラックとすれ違ったりしたので、この先にある程度のライフラインがあることは明白ではあったが、
雨でぬかるんだ状態、さらに今雨が降っているこの現状で、進んでいくことは今の自分の力量と精神力では荷が重かった。
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ここも駄目だったか。

行きにかかった時間の倍をかけてきた道を戻った。

3度目のアスファルト。
依然として、雨は降り続いたが走りやすさに変わりはなく、雨を跳ね上げながらさらに標高をあげる。
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天使の湖つまりLaguna Los Angelsと名付けられた湖を過ぎた辺りで、道路の様子がおかしくなってきた。
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道路工事の作業員が目につくようになったのだ。
この時の彼らは路肩脇に排水用の溝を作る作業を行なっていたが、それはもうすぐこの先が工事中になることを示していた。
そもそも今朝の一本目のダートに入った時に見た砂礫場から砂を集めたトラックが、ここに来るまでに何台にも抜かされていた。それは明らかにこの先で工事が行われている証明だった。
4100m付近の全く何もないところの、一体誰が何の目的で設営したかわからない謎の駐車場を過ぎた辺りで、これまで僕を追い抜いていったバスやトラックの渋滞が見えた。
道路工事の始まりである。
渋滞をかいくぐり、先頭に出ると、いったんは片側工事だったのでするすると走り抜ける。
間もなく、全線工事域に入った。
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今日の2つのダートに比べれば、相当に走りやすい未舗装路。
だが、この道路も長くは続かず、ちょうど下りに入る辺りから凄まじく荒れたダートに変わった。
石と言うより岩といったほうが適切なものがボコボコ顔を出す地面。
片側通行のためにさっきまで渋滞していたバスやトラックたちが小石を跳ね上げ僕を次々に追い抜いていく。
おおよそリズミカルとは程遠い、不規則なバウンドを繰り返しながら坂道を下る。
下るといっても全くスピードは出せず、だいたい6km~7km。
常にブレーキを握っていないと、すぐに加速して自転車ごとすっ飛んでしまいそうだ。
下半身は下半身で、岩を超えるたびにパンク防止のための脱重をしなければならず、体重移動でかなり疲れる。
全くもって楽じゃない下りをストレスを溜めながらひたすら下る。
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1000m近い高度をいたずらに消費し、川沿いの道に出る。

しばらく行くと、3本目のルートに差し掛かったが、もうすっかりこの道を進む気力は無くなっていた。

下り基調のこのダートでさえ、この苦労。
アップダウンの激しいこのルート、もしかすると200km近くダートの可能性がある。

もうルートに足を踏み入れることすらなく、自転車は130km先の海岸に伝うパンアメリカンハイウェイを目指して直進していた。
ところが、このルートもまったくもってダートが終わる気配はなく、途中の村のホテルも空き部屋がなくやむを得ず走るしか選択肢がなかった。
川沿いの道はさらに険しさを増し…
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こうこんな道ばっかり。

それでも地図上には主要幹線の一つとして書かれている通り、こんな荒れた道を工事車両がかなりの数で通っていた。

もうしばらく先まで町はない。
今夜のホテルは諦めて、野宿場所を探そうにも川沿いの道のため適当な場所がなかなかない。
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寒いけれど、峠の高原地帯にテントを張ればよかったかと、少し後悔。
夕暮れも目前に迫り、雨足も再び強くなったところで、このあたりにしては立派な家を発見。
お願いして、軒先にテントを張らせてもらった。

テントを張るにしても、これまでの道と雨でドロドロ。
荷物を運び入れると、室内まで汚い泥が入り込み、惨めなキャンプイン。
ほとほと疲れた一日であった。

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