2012年11月12日月曜日

リアの受難

ラパスを出て2日。
南に230kmほど進んだところにあるオルロの街までやってきた。


ラパス市街を出るために一度下りてきたエル・アルトの縁まで戻らないと行けないのだが、
すでに一度通った道なので、オルロ方面の分岐までタクシーで移動。
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相変わらずすごい排ガスとトラフィックのエル・アルト。
だが1時間も走ると、いつものボリビアの片田舎が戻ってきた。
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チャカルタヤ山やワイナポトシから見えた通り、標高3800m前後の平地がひたすらに広がる。
多少のアップダウンはありつつも概ねフラットで道路状態もよかった。
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バスが横を通り抜ける風圧はすごいものの、ペルーであんなにイライラさせられたクラクションもほぼ皆無。
あったとしてもその距離感は適度な距離で驚かされることはなくなった。
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このあたり、平地のあちらこちらで竜巻が発生している。
年中風が強いのだろうか。
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主に北から吹き抜ける風。
オルロまで残り35km程となったとき、完璧に風と自転車の向きがリンクした。
加えてフラットな道、完璧な舗装路…
軽く一漕ぎするだけで30km以上が出た。
これほどまでにパーフェクトな走行は久々だった。
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そのスピードのまま一時間ちょっと、オルロに入る料金所のゲートをくぐる。
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ゲートの向こうから市街地になっていて、そこからは中南米ではTOPEとかABRAと呼ばれる
自動車を強制的に減速させる高さ20CM程度の小山が連続していた。

そして大都市ほど見られる現象だが、中心部に入るに連れて道は石畳になり…

黄金のモニュメントが並ぶメインストリートを、僕はスピード感はそのままに走っていた。
石畳の凹凸も『だいぶ慣れたもんだな。これからダートに突入するんだし、こんなので参ってられないな』と
得意げに滑走していた。

『ズサッ』と後ろの方で音がした。

自転車を止めて後ろを振り返ると、僕の荷物が落ちていた。
荷台につけている折りたたみバケツが落ちちゃったかなと思い、取りに戻る。
道路に落ちている僕の荷物を見て、妙な違和感を覚えた。

僕のバケツの色は青なのに、落ちているものの色は黒だった。
そしてやけに小さかった。

近くまで行って荷物を拾い上げると、それは僕のガソリンストーブの入った袋だった。
他に落ちているものはない。

ここでようやく気付いた。

街に入っての凸凹道で荷物を落とした!

すぐさまカメラを取り出し、写真データをみる。
街の入り口で写真を撮ったからだ。
15分前に撮った写真にはしっかり青のバケツは写っていた。

慌てて来た道を引き返す。
戻りながら、バッグの中身を思い出す。
フライパン、卵ケース、味噌、行動食、舌クリーナー、泡たてタオル、ガス缶…
大したものは入っていないが、どれも中南米では手に入りにくいものばかりだった。
一番痛いのはバケツそのもの。
軽量コンパクトで、内側のフラップがコードで絞れるので普段はよく使う物入れとして、
宿では洗濯用バケツとして四六時中活躍していたものだった。

右側通行の道路を逆走し入念に探しながら戻るも、果たしてバケツは見つからなかった。
この僅かな時間に誰かが拾っていったようだ。

荒野の一本道ならともかく、人の多い市街地の道。
ここで僅かな時間でも、自分の手から離れてしまったものを再び手元に戻すということは難しい。

僅かな願いも潰えて、一息をついて荷台を見直す。
そうすると、リアのテールライトもないことに気付いた。

これには記憶がある。
今朝、ホテルを出るときに、外したテールライトをベッドの上で見かけ後でつけなきゃと思って、
そのまま忘れてきたようだった。

リアの受難は朝からはじまっていたのだ。

それに気づかず、平地・追い風に浮かれていたさっきまでの自分を呪い殺したくなった。
好事、魔多しとはよくいったものだ。

ただ不思議なもので、バケツにいれておいたガソリンストーブ(と乾かしていたトランクス)はどういうわけか
無事だった。
なくしたものはどれも便利グッズに分類されるもので必需品ではなかった。
これからのボリビアは未舗装と無人の荒野が続くハードなコース。
ガソリンストーブまで一緒に無くなっていたらと考えるとゾッとする。
それにこの先のダートで落とすより、ここでなくしてよかったかもしれない。
先に備えて食料をあふれるほど持っていて、そのためパッキングがおろそかになり、今回のおとしものになったからだ。
いい勉強になった。

運がいいのか悪いのか、こういうモノをなくすときに限って僕は
すぐリカバリー出来る環境にあるか、旅の中断を余儀なくされる重大なものはなくならない。
カメラにしてもサイフにしても、今回のことにかぎっても。
そりゃあ、買い直したりすると金銭的な出費はあるものの、あくまでそれだけだ。
悪運の強さに、少し自分でも感心してしまう。

でも、さすがにすぐに気持ちは復活しないようでセントロに着いたときは、もうヘトヘト。
宿探しをする気力もなく、一発目に見つけた宿になぜか日本語の電光掲示板で“ようこそ”と表示されたホテルにチェックイン。
そこは普段のおよそ3倍~4倍ほどする高級ホテル(1000円ほど)だったが、その日本語に助けを求めるような気持ちだった。
もちろん、表示だけでそこには日本人も日本語を解する人もいるわけではないのだが…

街の入口で撮影した写真。
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後ろに見える青いものがバケツ。
よもやこの15分後にお別れがくるとは…

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