2013年4月30日火曜日

End Of World but World Never End

大学4年の夏、僕は自転車でアメリカ大陸横断旅行に出かけた。

その始まりのとき、北京で数日過ごした後、
僕は巨大な自転車の入った箱をひいこら抱えてニューヨーク行の便に乗り込んだ。

三列シートの通路側に座った僕。

窓側の二席には、英語を話す白人のバックパッカーがいた。
今思えば、バックパッカーというものを初めて見た瞬間だったかもしれない。
彼らは、二人でトランプゲームに興じ、
機内食の時間になると青島ビールを何度もお代わりしていて、
CAに“これで最後ですよ”なんて言われていた。

一方の僕はというと、出発前に描いていたこれから始まる冒険譚への期待よりも
もう後戻りできないという不安のほうが勝り、緊張で食事も喉を通らなかった。

その時は3冊の文庫本を持っていった。
椎名誠と寺山修司、それとたしかエルネスト・ゲバラだったと思う。
その3冊中の椎名氏の著書は“パタゴニア”というタイトルだった。
副題に“あるいは風とタンポポの物語”と付けられた本は
緊張の機内の中で、内容なんてまるで頭に入っていないのに
不安を紛らわす一心で飛行機の中で読みきってしまった。

そうしてニューヨークに降り立ち始まったアメリカ横断の旅は
毎日毎日散々な目に遭いつつも、僕の記憶に鮮烈に残る旅となった。

2ヶ月近くかけて終点のサンタモニカにあるアーチをくぐった時
なんとも言えない感覚に包まれた。
桟橋の向こうには太平洋が広がっている。
道はここで途切れているのに、やっと横断が完了したのに
僕は終わったという実感がつかめぬまま、なんとも言えない虚無感が残った。

あれから6年と半年。

あの時読んだ本のタイトルに何かの因果関係があったかは分からないが、
桟橋で途切れた道は場所と時間を超えて、パタゴニアへと続いていった。

そこは正しく風の大地で、毎日風と戯れ、風にもがき続けた。
南緯40°のラインを越えたあたりでは、
タンポポが短きプリマヴェーラ(春)を謳歌していたが
ここにきて綿毛になったタンポポもちらほらと見える。
もうすぐこの地の夏の終わりも近いのかもしれない。

今朝、夜が明けたばかりのウシュアイアをパスして
その先のラパタイアに着いた。

“Aqui finaliza la Ruta Nac.N3”(国道3号線の終点)
と書かれた立て看板を見て安堵こそ感じたものの、
大陸分水嶺を越えてカナダのアルバータ州に入った時、
鬱蒼とした熱帯雨林の隙間から覗いたパナマ運河、
あるいは天空世界まで続くかのようなアンデスの山嶺をいくつも越え、
眼下に飛び込んできたクスコの赤茶けた街…
そんな強烈な手応えは感じることができなかった。

世界の果てにやってきた達成感よりも
この大陸が終わってしまう叙情感のほうが強いのかもしれない。

ここにきても、やはりこみ上げる感情はあの日と同じだった。

ただ、あの時と違って、この気持ちの正体が何なのか、
少しは分かりかけている気もする。

ウシュアイアで見かけた看板によると、ここから東京までは約17000kmだそうだ。
地球の円周が約40000kmなのでほとんど反対側。
まさに最果ての街の通り名どおりだ。

でもカナダから出発した僕の走行距離はもう25000kmに届こうとしている。
平面で見る地球よりも、実際の地球はとても歪で曲がりくねっているのだ。

そんな地球の凹凸を身をもって体感しているからこそ、
ここはまだまだ通過点なんだと体が知っている。
まだまだ知らない世界がこの地球にはたくさんある。

シチュエーションにこだわれば、地球はまだまだ遊べる星だ。

ここは世界の果てかもしれないけれど、僕にとっての世界はまだまだ終わらない。
次の大陸にも新たな出逢いや、自然、食べ物…たくさんの出来事に期待にしている。

道はここで途切れるかもしれないけれど、
この地球を走ってきた感覚が
まだまだ終わらないよと僕に訴えかけているのだ。
DSC02291_R
total days 595days (22/6/11~6/2/13)

total distance 24,666km
flat tires 27times
visited countries 15
highest altitude 6088m

 

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