ワルザザートは、これといって何もない街だった。
アトラス山脈の南に位置し、主要幹線の走る位置関係から、
ここより以南に広がるサハラ観光の玄関口になっていて、
郊外にはアラビアのロレンスなどに使われた映画スタジオがあったりと
何もないは言いすぎかもしれないが、少なくとも僕にとって何も無い街だった。
スークの先の広場の角にあるホテルは、
この年中太陽にさらされているこの土地にあって日当たりも悪く
誰かが詰まらせたモロッコ式トイレ、5分ほどのぬるま湯の後に冷たくなるシャワーと
決して居心地のいい宿とは言えないのだが、1日の延泊も含めて最終的に3泊。
居心地よりも、この腹の調子を整えることのほうが急務であった。
幸いにして体調は快方に向かい、毎夕肌寒くなりはじめる頃に広場を散歩し
砂漠の彼方に沈む見事な夕日を見て過ごした。
商人たちの絡みも控えめで、マラケシュに比べると落ち着き払った街の雰囲気は
モロッコに来て初めてゆっくりできた時間だったかもしれない。
ワルザザートを出て一路西へ向かった。
わずかに緑の見えた土地もひとたび郊外へ足を延ばすと、乾いた大地が延々と続いていた。
そんな土に紛れて、地図にないいくつもの土壁の集落があった。
この辺りはカスバ街道と呼ばれていて、アラブ人から逃れてきたベルベル人が
カスバと呼ばれる要塞に跡地が点在する街道だそう。
アトラス山中でもそうだったが、モロッコの人口分布はかなり薄く広い。
どうやって、こんな場所で暮らしていけるのか疑問に思いながらも、
その疑問を晴らすコミュニケーションの術を持たない僕はただただそこを通り過ぎるだけだった。
途中、パトリックというロンドンから来たサイクリストが後ろから追いついてきて、一緒にペアランした。
彼は小さなデイパックにロードバイクという軽装でモロッコを回っている。
ロードバイクだと距離が伸びるので、キャンプの心配もなく宿のある街まで走れる。
モロッコは特に道沿いのカフェが充実しているので、このような軽装でも問題なく走れるのだ。
海外ツーリング、というとキャンプ道具やコンロを積んで…とイメージされがちだが
それはパタゴニアやアンデスの極端に人口密度が低い場所だからこそ必須になるだけで
世界的に見れば、(幹線道路を走る限り)そのような過疎地域はそうそうないように思われる。
なぜならば、車が走っている通りであれば、ガソリンの補給の面で100km~150kmに一つは
最低限ガソリンスタンドがあるし、それに付随したカフェやレストラン、売店のようなサービスは大概ある。
もしなければ、スタンドの兄ちゃんに無理言って水を分けてもらうことも出来る。
だから重装備の自転車ツーリングというのは実は大抵は不必要なものの塊だ。
ただ、半年を越えるツーリングとなると暑いところ、寒いところ、経年劣化や故障といったトラブルに
対処するための装備としてあの荷物量が必要になる。
長い旅となると、かかるお金もそれなりのものになるであろうから、経済性を考えて毎晩ホテルで、
というわけにもいかない。
だいぶ話が膨らんでしまったが、つまるところ短期の海外ツーリングで言えば、
それほど敷居は高くないということ。
1週間~2週間の旅であれば、それこそ彼のようにデイパック一つで足りるだろう。
すでに自転車を持っている人は、短期海外ツーリングの準備はほぼ出来ているといってもいい。
そう言いつつも、まぁ走り方は人それぞれでどこに重点をおくかで荷物量は変わってくるだろうから
一概に言えない部分もあるのかもしれないが、
本国イギリスと変わらないであろう荷物で
軽やかに異国の地を疾駆するパトリックの姿を見て、僕自身が羨ましく感じたことだったので
もし、海外ツーリングに興味を持っていて偶然にこの駄文を読んでいる人がいれば、と思ったので書き連ねた。
日がすっかり昇ったカスバ街道は気温こそ暑いが、乾燥した地域なので走りやすい。
集落にわずかに生えている木々の影に入って休憩すれば、とても涼しい。
道中、彼のペースに合わせて…とは言わないが僕も彼につられて時速30kmで走った。
彼とは色んなジャンルの話をしたが(何と僕の勤めていた会社のことも知っていた)
やはり一番盛り上がったのは各々の旅行話だ。
でも、たくさん旅行してきた中でも、パトリックはロンドンが一番好きだという。
なんで?と尋ねると、生まれた場所だからねと言った。
ちゃんと自分の心根を下ろす場所を知ってるんだなと思った。
ロンドンは行ったことがないので分からないが、まぁ都会的な場所だろう。
そこに友人や家族がいて、たくさんの思い出がある。
どこが一番?と訊かれて故郷と答えれる人ってどのくらいいるのだろう。
自分の場合は、あの景色が、この道が~なんてのはいくらでも答えれるけど
心根を下ろせる場所と言ったらいったいどこなんだろう。
すぐには出てこない。
色んなものを見てみたいという思いで、出てきている旅行なので
今すぐにその答えを求めるのは早計なのかもしれにあが。
日本は古来ジパング、日の出る国と呼ばれていたのに対し、
モロッコはマグレブ、日の沈む国と呼ばれるそうだ。
その日、パトリックと別れて、一人取った丘の上のホテルで眺める夕日は
どういうわけか異国にいる、と強く思わせた。
アトラス山脈の南に位置し、主要幹線の走る位置関係から、
ここより以南に広がるサハラ観光の玄関口になっていて、
郊外にはアラビアのロレンスなどに使われた映画スタジオがあったりと
何もないは言いすぎかもしれないが、少なくとも僕にとって何も無い街だった。
スークの先の広場の角にあるホテルは、
この年中太陽にさらされているこの土地にあって日当たりも悪く
誰かが詰まらせたモロッコ式トイレ、5分ほどのぬるま湯の後に冷たくなるシャワーと
決して居心地のいい宿とは言えないのだが、1日の延泊も含めて最終的に3泊。
居心地よりも、この腹の調子を整えることのほうが急務であった。
幸いにして体調は快方に向かい、毎夕肌寒くなりはじめる頃に広場を散歩し
砂漠の彼方に沈む見事な夕日を見て過ごした。
商人たちの絡みも控えめで、マラケシュに比べると落ち着き払った街の雰囲気は
モロッコに来て初めてゆっくりできた時間だったかもしれない。
ワルザザートを出て一路西へ向かった。
わずかに緑の見えた土地もひとたび郊外へ足を延ばすと、乾いた大地が延々と続いていた。
そんな土に紛れて、地図にないいくつもの土壁の集落があった。
この辺りはカスバ街道と呼ばれていて、アラブ人から逃れてきたベルベル人が
カスバと呼ばれる要塞に跡地が点在する街道だそう。
アトラス山中でもそうだったが、モロッコの人口分布はかなり薄く広い。
どうやって、こんな場所で暮らしていけるのか疑問に思いながらも、
その疑問を晴らすコミュニケーションの術を持たない僕はただただそこを通り過ぎるだけだった。
途中、パトリックというロンドンから来たサイクリストが後ろから追いついてきて、一緒にペアランした。
彼は小さなデイパックにロードバイクという軽装でモロッコを回っている。
ロードバイクだと距離が伸びるので、キャンプの心配もなく宿のある街まで走れる。
モロッコは特に道沿いのカフェが充実しているので、このような軽装でも問題なく走れるのだ。
海外ツーリング、というとキャンプ道具やコンロを積んで…とイメージされがちだが
それはパタゴニアやアンデスの極端に人口密度が低い場所だからこそ必須になるだけで
世界的に見れば、(幹線道路を走る限り)そのような過疎地域はそうそうないように思われる。
なぜならば、車が走っている通りであれば、ガソリンの補給の面で100km~150kmに一つは
最低限ガソリンスタンドがあるし、それに付随したカフェやレストラン、売店のようなサービスは大概ある。
もしなければ、スタンドの兄ちゃんに無理言って水を分けてもらうことも出来る。
だから重装備の自転車ツーリングというのは実は大抵は不必要なものの塊だ。
ただ、半年を越えるツーリングとなると暑いところ、寒いところ、経年劣化や故障といったトラブルに
対処するための装備としてあの荷物量が必要になる。
長い旅となると、かかるお金もそれなりのものになるであろうから、経済性を考えて毎晩ホテルで、
というわけにもいかない。
だいぶ話が膨らんでしまったが、つまるところ短期の海外ツーリングで言えば、
それほど敷居は高くないということ。
1週間~2週間の旅であれば、それこそ彼のようにデイパック一つで足りるだろう。
すでに自転車を持っている人は、短期海外ツーリングの準備はほぼ出来ているといってもいい。
そう言いつつも、まぁ走り方は人それぞれでどこに重点をおくかで荷物量は変わってくるだろうから
一概に言えない部分もあるのかもしれないが、
本国イギリスと変わらないであろう荷物で
軽やかに異国の地を疾駆するパトリックの姿を見て、僕自身が羨ましく感じたことだったので
もし、海外ツーリングに興味を持っていて偶然にこの駄文を読んでいる人がいれば、と思ったので書き連ねた。
日がすっかり昇ったカスバ街道は気温こそ暑いが、乾燥した地域なので走りやすい。
集落にわずかに生えている木々の影に入って休憩すれば、とても涼しい。
道中、彼のペースに合わせて…とは言わないが僕も彼につられて時速30kmで走った。
彼とは色んなジャンルの話をしたが(何と僕の勤めていた会社のことも知っていた)
やはり一番盛り上がったのは各々の旅行話だ。
でも、たくさん旅行してきた中でも、パトリックはロンドンが一番好きだという。
なんで?と尋ねると、生まれた場所だからねと言った。
ちゃんと自分の心根を下ろす場所を知ってるんだなと思った。
ロンドンは行ったことがないので分からないが、まぁ都会的な場所だろう。
そこに友人や家族がいて、たくさんの思い出がある。
どこが一番?と訊かれて故郷と答えれる人ってどのくらいいるのだろう。
自分の場合は、あの景色が、この道が~なんてのはいくらでも答えれるけど
心根を下ろせる場所と言ったらいったいどこなんだろう。
すぐには出てこない。
色んなものを見てみたいという思いで、出てきている旅行なので
今すぐにその答えを求めるのは早計なのかもしれにあが。
日本は古来ジパング、日の出る国と呼ばれていたのに対し、
モロッコはマグレブ、日の沈む国と呼ばれるそうだ。
その日、パトリックと別れて、一人取った丘の上のホテルで眺める夕日は
どういうわけか異国にいる、と強く思わせた。
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