ファレスの街を漕ぎ出した僕は一目散に郊外を目指した。
幸いなことにこれから先の目的地であるチワワの標識をすぐ見つけることが出来たので
無駄に迷って右往左往することはなかったが
道路はエルパソ以上にツギハギやでこぼこが目立ち、走りにくいことこの上ない。
2車線のうち片側が工事中の道路だったため、ただでさえ多い交通量がより窮屈にさせる。
こちらの車、市内であってもけっこうなスピードで飛ばす。
特にバスは、自分の運転に自信があるのか、まったく徐行せずに僕の真横を通ってゆく。
その距離、約30㎝といったところでかなりヒヤヒヤものである。
それでも街自体はまだ午前中のためか、物騒な雰囲気はそれほど感じられない。
1時間も走ると郊外に出た。
メキシコもアメリカと同じく、街を一歩出ると不毛の荒野地帯が続く。
さっきまでの激流トラフィックもどこ吹く風で、あたりはあっという間に穏やかさを取り戻した。
路面は市内に比べれば遥かに、ましなものの噂に聞いていたとおり路肩が非常に狭い。
タイヤ一本分の路肩で踏み外すと、15㎝程度の段差になっていて、少々神経を使う。
やむを得ず本線にはみ出して走行するが、ここを運転するドライバーたちは案外マナーがよく
しっかり距離をとって追い抜いていってくれる。
それに、アメリカ以上に、“ププッ”とクラクションを鳴らして、僕にエールを送ってくれる。
あたりは穏やかさを取り戻してはいるものの、依然としてここは麻薬の密輸ルートの真っ只中。
数十km置きに軍の検問があり、荷物チェックをされた。
ファレスから次の街まで、約130km。
まだメキシコの勝手がつかめていないので野宿は避けたいので、日暮れまでに街につきたいが
越境手続きもあって走り出したのは11時。
そこでこの検問の足止めは、数分ではあるものの痛い。
また検問とは別に、この写真のような高速道路の料金所が各地にある。
主要幹線が高速であるため、そしてそれ以外にこのあたりはまともな道路がないため
自転車も高速道路を走ることができる。もちろんお金はかからない。
料金所には、必ずトイレと自動販売機、冷水機が備え付けてあるので休憩に重宝した。
料金所の位置はファレスで購入した地図に掲載されており、ガソリンスタンドのあるポイントも
載っているのでアメリカよりも休憩プランがたてやすい。
とはいえ、この日は道中この料金所以外にひとつだけ小さな街があった以外何もなかった。
ぎりぎり日暮れ前に街に飛び込めた。
この街は、メインストリート沿いに商店が並ぶ小さな街で街の入口にバスターミナルと露店が沢山出ていた。
露店に立つ男たちは僕を見ると、声をかけてきたり、手を振ってくれたり…
アメリカとはまた違った人懐こさに、国が変わると人もここまで変わるものかと感じた。
セントロにモーテルを見つけてチェックイン。
一泊約1600円。
ネットは使えなかったが、アメリカに比べれば半額近く安くなった。
かといって汚いわけでもなく、中は清潔。
まぁ、写真左下に虫が蠢いていますが(笑)
郊外にはホテルが他にもいくつかあったが、セントロにはここだけだったので
たぶん、このモーテルはファレスを越えてきたたくさんの自転車乗りたちも多く泊まって安堵を得た宿なんじゃ
ないのかなぁなんて思いながら、僕もようやく今日一日の緊張の糸を解く。
そのためか、宿の人も『ごめんなぁ、今一階は空いてないんだよ。悪いけど二階でもいいかい?』なんて
自転車を運び入れる手間をよく分かっている。
思えば、今日一日まともな食事をしていなかった。
荷物を置いた途端、どっとお腹が空いてきたので食事に出かける。
メキシコと言えば、言わずもがなタコスでしょう。
タコスを求め、ストリートをふらふら…
いいかんじの屋台発見。
とりあえず2つタコス頂戴。
目の前でおじさんがジュージューと鉄板で牛肉を炒める。
肉はソフトトルティーヤに挟んで僕のテーブルへと運ばれてくる。
それをテーブルの前に用意された数種類のサルサをトッピングしてライムを絞って
最後に塩を振りかけて完成。
バクリとかぶりつく。
もぉ、うまいのなんの。
噛めば噛むほどに溢れてくる肉汁に、玉ねぎのシャキシャキとトマトの酸味がほどよくブレンドされる。
そして、この味を最も引き立てているのは“塩”のようだ。
試しに、塩なしと塩ありで食べ比べてみたが、味の奥行きが全く違ってくる。
単に僕が汗をかいていたから、体が塩分を欲していたのかもしれないが
それでも、この渇いた大地で食べられている食べ物が塩と絶妙にマッチすることは関係ないとは思えない。
メキシコで食べるタコスは、日本で食べていたタコスと違って幾分小振りでふた口あれば食べきれてしまう。
最初のオーダーをあっという間に食べきった僕は、すぐさま追加注文。
さっきとは別なサルサをかけて味付けを変えながら食べた。
屋台からの帰り道、小さな商店でアイスクリームを購入し、食べながら夜道を歩く。
街といえども街灯はほとんどないので、建物から漏れてくる明かりだけが頼り。
それでも、危険な雰囲気は全く感じられず、メキシコ入国にビクビクしていた今朝がとても遠い日のことに感じた。
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